While Leaves Are Falling...
上製本・130頁
定価4000円+税
ISBN : 978-4-86541-057-0
日本語 / English
表紙はAとB、2種類ございます。(中身は同じです)
特にご指定の無い場合は小社でお選びいたします。
B
ご予約専用
美しくも複雑で、琴線に触れる写真集
ひとたび見れば、心に深く刻み込まれる。
────────── シャーロット・コットン(インディペンデント・キュレーター / ライター)
その日は突然やって来た。その日以降、私が知るそれまでの母は私の記憶の中に永遠に閉じ込められることになる。
両親の離婚後、私は母、祖母、2人のおばの4人の女性に育てられた。
そして1991年、私が20歳になってまもなく母は統合失調症(精神分裂病)と診断された。発症後の母は言動も行動も昔の母とはまったく違う別人のよう
で、家族と交わす会話も意味不明で支離滅裂だった。学生時代から仲良くしてきた母の友人らは、彼女の言動や行動が以前とは違うと感じると猛スピードで去っ
ていった。まるで彼女がそれまで歩んできた人生が一度に抹消されたかのように...。母が過去に存在した痕跡は、家族の記憶の中に漂う母と発症以前に撮られた
写真のみとなり、母の主な居場所は実家ではなく精神病院へと変わった。
1999年春、4人の女性の長である祖母が死んだ。
祖母の死後、私はそれまで撮影することがなかった家族の写真を撮り始めた。それらの写真のほとんどは、私がアメリカから日本に里帰りするたびに母と2人の
おば、犬のケリーと共に旅行した際に撮ったものである。遠出を好まなかった祖母の存在は一家そろって旅行することを困難にさせたため、2001年から始
まった家族旅行は欠如していた思い出を補うかけがえのない経験となっている。旅行先はほぼ毎年同じで、祖母を含む家族全員で唯一来たことがある箱根や日
光、福島、京都など、母とおばが若い頃から行きたかった場所が多い。
自分の家族は幼い時の記憶の中にあるまま永遠に不変だ、と道理なく思っていた私にとって、祖母の死は過ぎ去っていった時間を鋭く意識させる出来事となっ
た。これらの写真は、過去と現在の時間の往還を実現させてくれる大切な乗り物であると同時に、過去と変わりゆく現実に向き合うための試みでもある。(金山
貴宏)
統合失調症について:
「統 合失調症」は幻覚や幻聴、妄想が常に患者につきまとう精神疾患で、以前は「精神分裂病」と呼ばれていた。症状が慢性化するにつれ、それらの症状が一層強く なっていく。患者が体験する幻覚や幻聴、妄想は、患者にとっては実体験のごとく感じられ、耐えられないほどの不安や悶絶するほどの痛みを身体に引き起こす こともある。また、物事に対し何の感情もわかないなど、自分や他人の感情についての理解に障害があるため、社会や家庭で人と接しながら日常生活を営むこと に支障をきたすケースが多い。
金山貴宏 | Takahiro Kaneyama
1971年東京生まれ。2001年New YorkのSchool of Visual Arts 大学院写真科卒業。第2回富士フォトサロン新人賞、 第23回写真新世紀入選する。 ニューヨーク市立大学卒、清里フォトミュージアムにパーマネントコレクションとして写真を購入される。 第18回写真『ひとつぼ展』入選、同リクルート・スカラーシップ獲得を機にNYの国際写真センター(ICP)に在籍。在学中より雑誌中心に活動中。
写真展に、07年 Japan Society「Making a Home: Japanese Contemporary Artists in New York」(ニューヨーク)、09年「SHUMAFURA」(Miyako Yoshinagaギャラリー/ ニューヨーク)、2012年『Shades of The Departed』(同ギャラリー)がある。
受賞歴に、2013年東京インターナショナル・フォトグラフィ・コンペティション審 査員賞がある。16年NYFA (New York Foundation For The Arts)の写真部門のフェローシップを獲得、同年Light Work Artist-In-Residence(ニューヨーク州シラキュース)に参加。