拝啓 少しずつ春の気配の感じられるこの頃、いかがお過ごしでしょうか。
さてこの度、スペースAKAAKAにて標記の写真展を開催致します。
東京都台東区、かつて「山谷」と呼ばれ日雇い労働者の町として知られていたこのエリアにある外国人旅行者専用の簡易宿。鷲尾和彦は、この一軒の宿へやって来るバックパッカーたちのポートレートを5年間にわたり撮影しました。のべ数百人の旅行者との出会い。
彼らの言葉に耳を傾け、互いの言葉の向こうに残されていった記憶。
「そして、その『響き』が僕を強く共振させる時、僕たちはともにこの世界を漂い続ける小さな欠片であり、異なる場所でそれぞれの生を生きてきた者同士なのだという愛しさが込み上げて来た。」(あとがきより)
彼らひとりひとりのポートレートに刻まれる不思議な静謐と体温、そして切迫感は、未来への希望と不安が入り交じりながら漂う私たち自身の肖像でもあり、従来のドキュメント写真を超えた普遍性を獲得しています。遠くへ何かを探しに行くことだけが「旅」なのではなく、訪れては去る彼らの姿を見つめる中にこそ、宙吊りの今を生きる、新しい「旅」の写真の可能性があることを、「極東ホテル」は静かに指し示しています。
写真集『極東ホテル』の刊行と合わせて催される本展では全27点のプリントを展示致します。
ご来場を心よりお待ち申し上げております。
敬具
2009年2月吉日
AKAAKA