今まで、山内悠・黒田光一・浅田政志が東北に赴き、
その土地を捉えた写真と文章を産経新聞に寄せてきました。
今回は写真集『極東ホテル』の鷲尾和彦さんが寄稿されました。
土地への愛着が未来を創る
津波で壊されてしまった防波堤の上で、彼女たちは霞がかった春の海をみつめていた。
2人は姉妹。姉は仙台で働いている。
妹は今年から東京の大学に進学し1人暮らしを始めたばかり。
ゴールデンウイークの休みで久しぶりに再会し、連れだって懐かしいこの浜辺にきていた。
防波堤のすぐ先にあった彼女たちの家は流されてしまっていた。
僕は彼女たちに、数年前にこの浜辺を何度か訪ねてたくさんの写真を撮ったこと、
ここで漁師の方をはじめ多くの人々と出会い、この海が持つ豊かさを学んだことなどを話した。
すると彼女たちは、「どんな写真でもいいからこの海の写真を送ってもらえませんか」、
そして「たとえどんなことがあってもやっぱりこの海が好き、決して嫌いになったりしない」、そう言った。
以前に撮影した写真を彼女たちに送ることを約束し、
今は荒れている浜辺で2人のポートレートを撮影した。
ファインダーの中で、彼女たちの顔は海からの照り返しを受けて輝いていた。
これからさまざまな復興計画が立てられていくだろう。
それを推し進めていく力は、その土地への愛着、
「その場所が好きだ」という気持ちであってほしいと思う。
そこから始まること、そこへと戻っていくことであってほしい。
目の前の荒れてしまった光景はつかの間のものでしかない。
その土地を愛する彼女たちのような存在が、その感性が、きっとこれからの未来を創(つく)る。
もしも今、写真にできることがあるとすれば、そんな感性を、
その土地に生きる人とも、そして遠く離れた人とも共有しあえる手段として機能することだと思う。
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