【After 3・11】産經新聞に鷲尾和彦が寄稿。

11月23日の産經新聞朝刊の「After 3・11」のコーナーに、写真集『極東ホテル』の鷲尾和彦さんが寄稿しました。
岩手県釜石市についての文章と写真を寄せています。ぜひお読みください。


冬は春を迎えるための季節  

気仙沼から大船渡、釜石、宮古方面へと海岸線沿いを北へ向かう。  

夏草が生い茂ったまるで原野のような風景が、再び枯れ草や茶色い土に覆われた荒涼とした風景へと移り変わっている。この春から幾度となく通った道。しかし そのたびに目の前の風景は異なる様相をみせる。自然が剥(む)き出しになったこの場所では、季節の変化がより鮮明に見えるのかもしれない。もうすぐ冬がやってくる。  

気仙沼の本吉海岸では、壊された防波堤や松林がすっかり撤去され、かわりに大きな土嚢(どのう)がいくつも積み上げられてい た。その大きさに圧倒される。道々では多くの土木作業員が黙々と仕事をする姿に何度も出会った。削り取られた岸壁の先で出会った測量士と少しの間だけ話を させてもらった。  

途方もない大変な仕事が続いていくことは確かだ。しかし、それでも出会った彼らはとても静かで穏やかな表情をしているよ うに感じられた。どうしてなのだろう。自然と人とがふたたび関わろうとしていく、彼らがその最前線で働いている人たちなのだと気付いたとき、少しだけその 理由が分かったように思えた。  

もちろん、どうにか瓦礫(がれき)の撤去は進んだものの、その先はまだまだ手つかずという場所も圧倒的に多い。土台だけが残る住宅地の跡が続く場 所を歩いていると、突然、白い2本のつややかな木がすっと立っているのが目に入った。それは午後の日差しを受けて光っている真新しい小さな鳥居だった。  

土埃(つちぼこり)に覆われたモノトーンの世界の中で、そこだけ空気の流れが違うように感じた。新しい息づかい。新しい呼吸。もうすぐ冬がやってくる。そして冬は、次の春を迎えるための季節なのだ。

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