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2012.4.28 平間至・齋藤陽道 トークイベント「せかいに至る道...」 (浅草 浪花家にて)
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【齋藤】平間さん、来ました!
【平間】お待たせしました。
【安田】皆様、今回はご来場頂きありがとうございます。

浅草 浪花家の安田と申します。

「せかいに至る道...」ということで、

今回 筆談トークを行ないます、平間至さんと齋藤陽道さんです。
【齋藤】今日はどうぞよろしくお願いします。
【平間】こちらこそよろしく!
【 客 】(拍手)
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【平間】まず「感動」というタイトルがすごくいい。
【齋藤】ありがとうございます。

このタイトルにした理由は、いくつもいくつもあって...
【平間】聞きたい!
【齋藤】まず、人間として、写真として、

ダサいくらい当たり前のところから始めたいと思った。

最初に作った写真集は「同類」というタイトルで、

写真新世紀に応募したものと似ている作品でした。

2010年6月に作って、10月に新世紀で展示をした後に、

新たに写真集をまとめることになり、「感動」が出来ました。
【平間】世の中がどんどん便利になっていくと、

感動が遠ざかっていく気がして、

写真を撮る時も、まずは自分が感動しないとって、いつも思う。

陽道さんにとって、

生きていることがひとつの感動なんだと思ってる?
【齋藤】はい。
【平間】じゃあ、ある時期は結構個人主義的な生き方をしていたの?
【齋藤】はい。

別に不良とかではなくて...

内にこもっていくような個人主義(?)でした。

周りがわかってくれないから、というような。
【平間】「個人主義」って、ひきこもり?
【齋藤】に、近かったです。

徹底して個人を貫くと、

どうしたって周りの関係に目を向けざるを得ないし、

ひとりで生きてるわけじゃないっていうことに、行きつくと思うから...
【平間】じゃあ、何のきっかけで、外に出て行くことになったの?
【齋藤】小学校から中学校までは普通の学校で、

うまくコミュニケーションが取れないこともあって、

内にこもるようになった。

高校でろう学校に入り、「手話」という言葉に出会って、

そのときやっと「おはよう」とか「バイバイ」っていう、

普通のあいさつが普通に言えて、

伝わることに本当に感動したんです。
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【平間】以前、何度か中耳炎になった時、

ひどい時は半年ぐらい耳が聞こえなくなった。

その時、目の前の風景がだんだん現実感がなくなり、

結果、鬱っぽくなったことがあった。
【齋藤】そのとき、写真は変化ありました?
【平間】なかった。

それに、あまりに世界が遠くなってしまったので、

そんなに撮らなかった。
【齋藤】おれは逆で、補聴器をずっと使っていたけど、

ほとんどノイズしか聞こえなかった。

20歳になったのをきっかけに、

補聴器をやめて、無音の世界に入ったら、

世界がキラキラとくっきり見えるようになりました。

元の自分に戻れたって思えた。
【平間】「キラキラ」...。

それがすごく写真に反映していて、

「世界はこんなに輝いているんだ」と感じる。

今、この健康な状態で、耳からの情報を意図的に遮ると、

「感動」のように、キラキラ輝く感じがとてもよくわかる。
【齋藤】タイトルについて、いろいろ思うことがあるのですが...

「感動」って、自分ひとりで沸き上がったり感じられるものじゃなくて、

自分以外の、他者のエネルギーが自分に...、

予想だにしなかった形で降り注いだときに、起こるものだと思うんです。

その感動のとき、

自分は消えていて、無防備で怖いなって思う。
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【平間】ところで皆さん、筆談ショーは面白いですか?

【 客 】(頷く)
【平間】良かった!
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【平間】僕の考える「感動」は、

意識が無意識まで突き抜ける瞬間だと思ってる。
【齋藤】何に貫かれるんでしょう?
【平間】視覚や音や言葉など...、外からの刺激、情報。

耳が聞こえないことによって、

他の感覚が鋭くなってることってあるよね?
【齋藤】はい。

補聴器を捨てて、世界がギラッとしたことと似てます。
【平間】「補聴器を捨てること」って、何なんだろう?
【齋藤】おれにとっては、絶対に必要なものだと思ってて、

「音を捨てること」と一緒でした。
【平間】絶対に必要なもの...。

でもそんなに役に立ってなかったんだよね?
【齋藤】小さい頃から当たり前のようにつけていたので、

その思い込みを捨てることが難しかったんです。

役に立ってなかったなって、今は思っていますが。
【平間】きっと、人はたくさんの思い込みを捨てられずに生きているんだ!

捨てないと得られないし、

勇気を持たないと得られないよね?
【齋藤】(頷く)
【平間】おれは何を捨てたらいいと思う?

「補聴器」は、おれにとって何だろう?
【齋藤】音楽とか...?!??
【平間】えっーーーー!!!
【 客 】(笑)
【齋藤】わかんない!何でしょう?
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【平間】みんなおもしろい?
【齋藤】ろい?
【 客 】おもしろいっすよ!
【平間】良かった!二人は面白いけど、ちょっと不安だよね?
【齋藤】ハイ。
【 客 】(笑)
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【平間】何か新しい話をしようか?
【齋藤】以前、音楽に依存している...とお聞きしましたが、

音楽の「何」がそうさせるんでしょう?
【平間】思春期に、全てを音楽から学んだから。
【齋藤】どんなことを?
【平間】自分が何者で、世界がどうなっているか。
【齋藤】そんなことまでわかるんですか!

おれ音楽を聞いた...、分かったことがないので、

まったく想像つかないです。
【平間】ライブ会場のでかい音でも全然聞こえない?
【齋藤】「響き」は感じますが、その中の音の違いはわからないです。
【平間】なるほど。

ベースを弾くんだけど、

ライブの時に、「音」というよりも低音圧を感じる感覚だね。
【齋藤】写真を始めてみたら、

会う人がみんな、音楽に強い関心を持っている人が多くて、

音楽についていろいろ思ってる。...片思いみたいに。

楽しい。

わかんないけど...、ちょっと悲しいけど、楽しい。
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【平間】新しいシリーズの写真は、音楽のある場所?
【齋藤】音そのものです。

音楽って、

「こんな世界で、たった一人が振り絞るもの」だと思っていて、

切実なものだなっていう思いがあります。
【平間】写真も同じじゃない?

表現は切実なほど良い。
【齋藤】でも、写真はカメラや引き伸ばし機という道具があってこそで、

歌は、生身そのものから出ているんだなって思うと、

ちょっと羨ましいな、とも思います。
【平間】生身...。

ダンスもそうだね。

あと、音楽がいいと思うのは、リアルタイムで表現できること。

写真はちょっと時間がかかる。
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【齋藤】音楽が「切実なもの」という印象が出た1枚が、これです。

↓

【齋藤】自分じゃない...見ず知らずの他者のために、世界に振り絞っている。

そんな思いが出てるなって思います。

音楽と同じように、写真でもそうありたいから、

ベタベタした個人的なものは、写真には載せないようにして、

あくまで「自分」と「他者」の中間を見たいと思っています。
【平間】「見たい」?
【齋藤】様々な他者を貫く、共通する一点を見たい。という意味です。

【平間】それは言い換えると、

「誰のために撮るのか?」になると思う。

...おれは自分のためでありたい。
【齋藤】自分も越え...貫いて、

いつかの誰かのためと、漠然だけど、そう思っています。
【平間】「越えて」って、書こうとしたじゃない?

今のおれは、自分を越えた自分だ。
【齋藤】意識と無意識の話につながります?
【平間】そう。

自分の深度をいかに深めていくかが、ひとつの大きな課題で、

そこには普遍性もあるし...、もちろん個人を越えていく。

時間も古代まで遡るかもしれない。

無意識には無限の情報があるから。

以前は人を撮るときに、

その人をよく撮ってあげたい、という気持ちがあったけど、

田中泯さんという舞踏家を撮った時に、それを実感した。
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【齋藤】写真を並べるとき...

まったく別のもの同士なのに、

どうしてこんなにも似ているんだろう?

って驚くことがあって、それも無意識...?

すべての源は一緒、という境地からやってくる感覚かな?

と、今思いました。
【平間】自分にとってのテーマもまさしくそれで、

人、土、空、木、水...、

みんなどこかでつながってシンクロしていること。

それを伝えられたら、と思っている。
【齋藤】田中さんの踊りには、

そういう...万物がつながっているのが見えたんですか?
【平間】うん。
【齋藤】へー。見てみたいです。
【平間】是非!
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【安田】ここで一旦休憩です。

これからたい焼きとお茶をセットでお出しします。

2人が筆談していた用紙は、入り口に張り出しますので、

ご覧になってみてください。

【平間】では休憩。
【齋藤】休憩ー。
(10分間休憩)
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[齋藤さんのスライドショー:約11分]
【平間】まぶしかった。

とても光を感じるのは、

陽道さんの中に闇がしっかりあるからだと思う。
【齋藤】いつもいつも思う言葉なのですが、

「それでもやっぱり世界はきれいだな」

って実感できるものを...と、いつも思ってます。
【平間】そんな気持ちが、写真からとても伝わってくる。
【齋藤】輪廻転生とか、そういう概念は信じてないのですが、

おれの実感として、

どんなものにもつながりが...、似通うものがあると感じていて、

平間さんのおっしゃる「すべてつながっている」という言葉。

ほんとに信じたいです。
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【平間】最後に聞きたい。

こんな不安な時代だと、

なかなかキラキラした気持ちを持って、生きていけないじゃない?

みんなに何か、キラキラを感じて生きるアドバイスを。
【齋藤】ええっ。えー。

【 客 】(笑)
【平間】おれはどちらかというと、闇担当だから。
【齋藤】じゃあ、平間さんからは

闇をかかえて生きのびるアドバイスを!
【 客 】(笑)
【平間】みんな、闇を抱えていると思うから、

しっかり自分の闇と向き合うことかな?

音が聞こえない陽道が光を求め、

音が大好きなおれが闇に向かう。

なんか対象的だね。
【齋藤】闇がすごくあると、

ちょっとの光でも、ものすごく嬉しい。幸せ。

でも光が多ければいいってことじゃなくて...

闇とか、やんなる気持ちがあるから、

いつかのちょっとの光が楽しみ。

そう思うしかないなと思います。
【平間】...うまくまとまったかな?
【齋藤】ですね!
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【質問1】今回の企画はどのような経緯で?
【平間】それは安田さんに。
【安田】そうですね...。

元々、平間さんにお世話になっていて、

個人的に色々とお話しを伺いたくて、持ち上がった企画でした。

それと齋藤さんの写真展のときに、平間さんが見にいらして、

齋藤さんの撮る写真と、

写真集「感動」に興味を持って頂いたのが縁で、

お二人で筆談トークをしていただくことになりました。
【平間】もう一人からも質問が。
【 客 】いや、大丈夫です。同じことを聞きたかったので...。
【平間】そうか。ということは、きっと意外な組み合わせなんですね。
【 客 】(笑)
【質問2】会話するのと書くのとでは、何か違う感覚がありますか?
【平間】会話は、心を消費しているようなイメージがある。

筆談は...、心を明確にしていくような、そんなイメージ。
【齋藤】手話のときと筆談では、頭を使うとこがまったく違って、

混乱して...おもしろいです。
【質問3】キラキラした光を見た時や、写真を撮る時に

音を想像することはありますか?
【齋藤】しないです。

音は永遠の片想いの相手だから、うかつに考えちゃいけない。

【 客 】(笑)
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【平間】もしかすると、写真って片思いなのかも。
【齋藤】誰に...どこにですか?世界への片思い...?
【平間】そう。だからおれたちはずっと片思いできる。幸せ者。
【齋藤】しんどいときもあります。...
【 客 】あっ?!
(突然スライドが写らなくなる/ビデオカメラの充電切れ)
【齋藤】電池切れた?
【平間】切れた。
【 客 】(笑)
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【齋藤】いいかんじにシメつつあります!
【平間】今日はありがとうございました!
【齋藤】ありがとうございました。
【平間】おもしろかったね。
【齋藤】楽しかったです。
【 客 】(拍手)
【平間】特製たい焼きはこれからですか?

そればっかり気になってるんですけど。(笑)
【安田】はい。ご注文を受ければお出しします。

中に入ってるのは...、

枝豆とカスタードが、平間さんの案。

サツマイモとカボチャ餡が、齋藤さんの案です。

皆さん、よろしければどうぞ。
【平間】私の地元が宮城県で、枝豆は「ずんだ餅」から、

カスタードは、仙台のお菓子で有名な「萩の月」が由来です。

ずんだとカスタードと、サツマイモとカボチャ。

ちょっと甘々な...、今日はロマンチックな甘い感じで。
【 客 】(笑)
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(トークショー後)

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編集:Yuki Okamoto
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