About Book
子供の頃、ぴかぴかに磨き上げた土ダンゴを大切に下駄箱に仕舞っていたことを覚えている。それ以来、忘れかけた感触に改めて触れたのは、二十歳を少し過ぎた頃、東京は下町の古い木造二階建、長屋のようなアパートでした。私の住んでいた一階の部屋は、南側に大きな窓があり、朝日の入る気持ちの良い部屋でした。そんな所で版画や平面の制作をしていたのですが、その過程で、自然の材質に引かれ、やがて土そのものに、表現以前の根源的な物を感じるようになって行ったのでした。
(中略)
あれからもう30年以上が過ぎましたが、その後野焼によってもう一つの根源となる火を取り入れ、そして土の表情は私自身の手の痕跡によって意味を持ち、少しずつ形となり、そして生活の中で、器も自然と形となって来ました。 そんな中、私は何度か始めに立ち戻ります。それは双六で振り出しに戻るように。しかし振り出しは同じように見えて何時も違うのです。時間や空気も違う新たな始まりなのです。だからいつも楽しく面白い。飽きる事がない。ただ時折、思い出すことがあります。あのアパートの庭でパネルを作って居た時、隣に住んでいた看板屋さんに釘の打ち方を教えてもらった事を。奥に住む屋台のおでん屋さんにおでんをいっぱい貰った事を。
本文内著者エッセイより抜粋
Artist Information
植松永次 | Eiji Uematsu
1949年 神戸に生まれる
1972年 土の質を確かめる事からレリーフを創る。
その後東京で焼物の仕事を始める。
1975年 信楽に入り製陶工場勤務の傍ら自らの制作を続ける。
1982年 伊賀市丸柱に住居と仕事場を移し、薪と灯油併用の窯を築き野焼きも含め作品の巾は広がる。
その後東京で焼物の仕事を始める。
1996年 滋賀県立陶芸の森に招待され制作
1980年代より 個展・グループ展多数
1949 Born in Kobe, Japan
1972 Started pottery
Has held many exhibitions since 1980's.
Lives and works in Tokyo.