朝10時、山形を出発。今日から花笠祭りが始まる。ちょっと残念だけど、それでも旅立たなければならないのだ。目指すは、会津若松。

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カーナビに目的地を入力すると、猪苗代湖と磐梯山の麓をお昼ごろに通過することに気付いた。今日は移動だけで夕方までは時間がある。旅の仲間たちを連れて行きたい場所がとっさに浮かんだ。裏磐梯、五色沼あたり。個人的な話になって恐縮だけど、この場所にはとても大切な思い出がある。ひっそりとしていて、そしてとても美しい場所。その佇まいがとても好きな場所。みんなにも訪ねてほしかった。五色沼につくと、みんなそれぞれ(もしかするとこの旅ではじめてかな?)自然を満喫しようと散っていった。僕はどうしても訪ねてみたいところがあった。


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それはかって訪れたある一軒のホテル。とっても心地よい時間、そして最高に美味しい地産地消の料理をもてなしていただいた所。僕はこのホテルとの出会いを通じて 裏磐梯の、そして福島の魅力を体感した。震災(というか歴史上最悪最低の人災)以降、このホテルがどうなったのか、ずっとずっと気がかりだった。五色沼を満喫しているみんなに断って僕はこのホテルを訪ねてみた。
宿泊客でもない僕をホテルの支配人を快く迎えてくださった。そして震災以降のこのホテルについて語ってくださった。地産地消をもう辞めた方がいいんじゃないか、従業員には出来るだけ負担をかけたくない、スキーシーズンにはなんとかなればいいのだけど。赤裸々に話していただく支配人に感謝しながらも、いたたまれなくなる。でも、そう思いながらも、自分も一人の加害者なのだと改めて感じていた。


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このホテルにはとても美しい池がある。この池が見たかった。そして、それはやっぱり美しかった。何もできないけれど、この小さな池がいつまでもひっそりと静かに汚されることなくあってほしいと願った。


会津若松に到着。今日の会場は少し不便な場所にあったためお客さんの数はこれまでで一番少なかった。でも、個人的にはもっとも良い時間をお客さんと共有できた夜だったと思う。今夜のトップバッターは山内悠。接客業のプロらしく、笑いをとりながらもぐいぐいとお客さんを引き込んで行く。もちろん、ピュアで誠実な写真はやっぱり何回見ても素晴らしい。無敵だよなあ、山内くん。

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二番手は、黒田光一。僕は毎回黒田さんのスライドを見るのが楽しみでならない。さっき立ち寄った五色沼で録音したばっかりの音を黒田さんはBGMに使った。これが写真が持つ圧倒的かつ最強のスピード感だと思う。意味に絡み取られるまえにするりと滑り抜ける黒田さんの身のこなしに、やっぱり僕はいつも圧倒されてしまう。

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三番手は、高橋宗正。「楽しさが入り込むとアートからは遠くなるかもしれない。でも楽しい方がいいんじゃない?」 今回の旅で宗正くんといろんな話ができたことは本当に嬉しかった。こんなに写真を信じて愛している人はなかなかいないよ。

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四番目は、今日から参加の大畑祐子さん。『 Swimming in time』。大畑さんはプールガードをされている。「私は自分を写真家とは呼びません。プールガードと写真、私の人生にとってどちらも欠かせないから。」 写真家というのは写真だけ撮って仕事にしている人のこと? 僕は大畑さんのはっきりとした物言いはとても良いなと思った。BGMに使ったビル・エバンスのピアノが「プールで瞬くきらきらとした光に似ていると思う」というのもとってもいかしてた。

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五番目は、鷲尾和彦(つまり僕)。『Seas』という新作。モノクロームの海の写真。まあ自分のことは書きにくいのだけど、言いたかったことは、とても小さな、パーソナルな場所を深く掘って進んで行くと、かならず大きな世界につながるということ。井戸を掘り進むと必ず水脈に繋がるということ。

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六番目は、我らが浅田政志。このビデオ作品はなかなか凄い。徹底して「戦い抜く」姿勢に、いつも刺激をもらってます。必見!!

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そして今夜のトリは、佐伯慎亮。『コノキシ』という新しいシリーズは、『挨拶』以降の作品。そして今回の東北ツアー中に撮影した写真も積極的に入れ込んで見せてくれた。一瞬の刹那に「生」と「死」というダイナミックな振れ幅(レンジ)を垣間みることが出来る佐伯君の視線。「生」と「死」というテーマは沢山の写真家がテーマにしている。しかし、佐伯君の場合はそこに「喜び」や「楽しさ」も入ってくる。そこが他の写真家とは違うと思う。だいたいの場合、神妙で大仰になるのだから。佐伯君のピュアで無邪気な人柄だからこその作品だと思う。

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確かに今日はこれまでで一番少ないお客さんだった。でももっとも濃密で楽しい時間でもあった。

「こんなに近くで話せて良かったです」(浅田くん)
「みんな良い顔してますねえ」(お客さん)

そんな会話がマイクもなしに直接話すことが出来たのだから。
僕からいつでもそんな時間が大好きだ。 そして、僕らはいつでも写真の種をまきつづける。


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(鷲尾和彦)