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『NY 1980』を出されている大竹昭子さんが、百々新 写真集『対岸』の書評を
紀伊國屋書店のwebの書評空間でお書きになりました。こちらでも掲載いたします。
ぜひお目をお通しください。

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「カスピ海を巡る5つの国の旅」

カスピ海が世界でいちばん大きな湖なのは知っていても、そこにいくつの国が面していて、それがどこの国なのかを言い当てられる人は少ないのではないか。

解答と言うと、東から時計回りに、トルクメニスタン、イラン、アゼルバイジャン、ロシア、カザフスタンの5国である。そうか、と思うものの、無惨なほどそれ以上の感慨が浮かんでこない。多少の知識があるのはロシアとイランで、ほかの3国についてはどんな場所なのかイメージできない。

『対岸』はカスピ海に面したこの5国の沿岸で撮影されたもので、今年度の木村伊兵衛賞を受賞した。見たこともないような奇妙な様式のビル、派手できらびやかだが、どこと特定しづらい装飾的な室内インテリア、岩山に建つ古いアパートから突きでた無数のパラボナ・アンテナ、湖に携帯電話をむけて撮影している黒装束の女性たち、天然ガスの採掘場なのか岩のあいだの夜空を昼間のように明るく照らすライト群......。

過去にこのエリアがこのように撮影されてきたことはあるだろうか。海外には、カスピ海に生きる人々の暮らしや産業を追ったコーヒーテーブルブック的な写真集があるかもしれない。だがこれはカスピ海を撮った写真集ではない。写真家の関心は水域ではなく、そこに面した国々にある。

「対岸」というタイトルにもそれは現れている。「沿岸」ではなく「対岸」。湖の周りをめぐるのではなく、反対側に視線を投げかけるという意図が感じられる。西の黒海も複数の国に囲まれているが、あちらはボスポラス海峡のところが開いている。だがカスピ海は流出する川のない完全に閉じた円の空間なのだ。

トルクメニスタンの対岸にはアゼルバイシャが、カザフスタンの対岸はイランが、ロシアの対岸にはトルクメニスタンとカザフスタンがある。東と西、北と南が、この巨大な空隙を挟んで出会っているような不思議さを感じずにいられない。現代では対岸に行くことはなく、おそらく両岸を結ぶ空の便すらも少ないと思うが、かつては水運によって頻繁に行き来がされていただろう。

さて、ここから本題の写真に入りたいのだが、すでに書いたように私はそれぞれの国の文化についても、現在の国境線が引かれた事情についても知識を持っていない。知識がないということは、写っているものの意味を読み込めないということ、表面的にしか見られないということだ。ということをまず告白しておくとして、単純に写真のおもしろさに惹かれてページを捲っていった。知らない土地に降り立ち、街を歩く。手がかりのないまま、幼い子供と同じように目をキョロキョロさせながら歩く。将来ともその地に行くことはないと思うから、これが最初で最後のような気持ちで一点一点に見入る。

国別にレイアウトされているので、どの写真がどこで撮られたかは一目瞭然である。だが写真を見ているときの私は、国ごとの差異を見いだそうとする意志と、差異がないことに肩入れしようとする意志とに引き裂かれている。そのどちらの気持ちにも嘘はない。

差異を見いだすのは知的な視線である。よく目をこらせば写真によっては、文字、人の顔、国家元首の肖像写真、宗教建築など、国を特定できる手がかりが見つかる。それを探しだして理解を深めようとする。

もう一方の視線は、それとはまったく逆で、どの国のあまり差がないなあ思いつつ見ている。こちらのほうが現在の自分に正直だろう。たとえばパリのエッフェル塔のようなよく知られたシンボリックなものがない。人種的な差もわからず、文化的な記号が見いだしにくい。その代りに共通して浮かび上がってくるのは、街路が雑然としていること、建築様式が独特なこと、経済的に豊かそうには見えないこと(道路がガタガタで、ゴミが散乱している)、土地も肥沃そうではないこと(岩山や荒れ地が多い)......。

多少なりとも情感が感じられるのはロシアの章で、文化の厚みのようなものが伝わってくるが、ほかの4国はノイズが多く、文化的な記号が錯綜していて、それが少しもほどけないことに圧倒される。自分のまったく知らない場所が、彼らにはとても親しい場所であるということに驚き打たれることは東京を歩いていてもあるが、それが想像を超えるレベルにあり、圧倒的な「他者」との遭遇にめまいを覚える。

カスピ海と日本列島はほぼ面積が同じで、水域と陸地を逆転させると、閉じている島国=日本と、閉じている水域=カスピ海はポジネガの関係になる。それに気がついたとき、このプロジェクトの根っこにぶち当たったような気がした。もし「対岸」をキーワードに沿岸の5国を撮影したこれが世界初の試みだとしたら、日本の写真家だから発想できたということがあるかもしれない。世界最大の湖を挟んで5つの国がむきあっているという事実には、島国にいる私たちの想像をかき立ててやまない何かある。ツボを押さえられたような刺激が走る。

紀伊國屋書店「書評空間」→http://booklog.kinokuniya.co.jp/ohtake/archives/2013/07/post_86.html

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現在、8月末出版予定の写真集『旅する木/Travelling Tree』を制作中の茂木綾子が、
MISAKO & ROSENにて写真展「ノマド村」を開催いたします。

7月28日(日)にはオープニングレセプション(サンデーブランチ)も13時から開かれます。

皆さまお誘い合わせのうえ、ぜひ足をお運びください。




茂木綾子写真展「ノマド村」

Ayako Mogi Photo Exhibition "Nomadomura"


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©Ayako Mogi



茂木綾子は1969年北海道生まれ。主な展覧会に2012年大分県国東半島アートプロジェクト(アートプロジェクト)、2010年「Beyond Beyond」MISAKO & ROSEN、東京(個展)などがあります。
2007年には代表的な映画作品「島の色静かな声」にて東京国際映画祭、ナチュラルTFF部門に参加しています。1992年にキャノン写真新世紀展にて荒 木賞を受賞後、単身ドイツのミュンヘンに渡ります。その後、ドイツ、スイスと移動しながら映画作品や写真作品を手がけてきました。

現在、兵庫県の淡路島を拠点にしている「ノマド村」は、2006年にスイスのラコルビエルを拠点に、夫でインディペンデント映像作家のヴェルナー・ ペンツェルと共に立ち上げた「Laboratoire Village Nomade」から始まりました。2009年より淡路島に拠点を移し制作活動をしています。

展覧会のタイトル通り、「ノマド村」とは茂木自身が制作の拠点にしている場所です。淡路島の農村集落の廃校を改装した場所で、写真や映像制作に加 え、この場所で茂木は家族と共に生活をしています。保険室や職員室を改装し、リビングや週末カフェを併設した「ノマド村」には人々が集います。様々な人の 創造に開けた場所であり、「ノマド村」そのものが茂木とヴェルナーが手がけたアート作品のようなのです。
茂木の写真作品の描写は常に自身のライフスタイルと関連を持ち、記録写真とは違った生活の経過が見て取れます。ただ単純な風景の美しさの描写ではなく、むしろ見えるはずのない空気感の美しさが映し出されています。茂木の写真にしか映らない空気があるかもしれません。
別々に撮影された作品を同じ画面に張り合わせる方法は、繋がりがない場面同士が物語として繋がっていく映像作品の手法ともリンクしています。
ノマド村に移住してからの初の個展となります。



日時

2013年7月28日(日) - 8月25日(日)
OPEN|火〜土 Tue.-Sat. 12:00-19:00/日 Sun. 12:00-17:00 
CLOSE|月曜・祝日 Mon. & National Holidays + 11~16 Aug.
※夏期休廊 8月12日 - 16日


オープニングレセプション(サンデーブランチ)

7月28日(日) 13:00-16:00
※オープニング当日は日曜の通常営業時間通り17時までとなっております。

場所

MISAKO & ROSEN

〒170-0004 東京都豊島区北大塚3-27-6

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展示の詳細はこちらをご覧ください。
7月28日(日)に宝塚メディア図書館で開催される小野さんイベントのご案内です。
Ustream放送の「NEW CONTEXT」でもご一緒している『写真画報』などの編集者沖本尚志さんと
写真やメディアにまつわるトークとなります。

関西の皆さま、お誘い合わせのうえぜひご参加ください。


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NEW CONTEXT〜新しい写真のメディアを考える

写真表現大学の卒業生でもある小野啓さんは、高校生を10年間撮り続けている写真家です。
学校を卒業し、どの様な活動を続けてこられたのか、作品『NEW TEXT』について、現在進行中のプロジェクト(小野啓写真集『NEW TEXT』作って届けるためのプロジェクト)についてお話頂きます。
また、編集者である沖本尚志さんは写真雑誌『PHOTO GRAPHICA』について、新雑誌『写真画報』についてや今後の構想などをお話頂く予定です。そんなお2人はUstream放送『NEW CONTEXT』を共同運営されています。
写真家と編集者それぞれの立場で、これからの写真やメディアについてお話頂きます。

※この講演のUstream配信はございません。


講師

小野啓氏(写真家)・沖本尚志氏(編集者)

参加費

2,000円(一般)
※図書館有料会員は無料。

予約

下記リンク先のページ下部にあるお申し込みフォームからご予約をお願いいたします。

日時

2013年7月28日(日)
13:30〜15:30

場所

宝塚メディア図書館(阪急逆瀬川駅カルチェヌーボ B1F)

先に7月28日(日)に宝塚メディア図書館で開催される
についてご案内しておりましたが、その前日、27日(土)19時から、大阪のブルームギャラリーにて
小野啓×沖本尚志×オオサカポートレーター トークイベントが開催されます。

また、トークイベントの前(13〜19時)には、トークイベントにご参加の方とプロジェクトにご参加いただいている方を対象に、
小野さんと沖本さんによるポートフォリオレビューも開催されます。

ポートフォリオレビューもトークイベントも、皆さまお誘い合わせのうえぜひご参加ください。



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小野啓 × 沖本尚志 × オオサカポートレーター トークイベント


ブルームギャラリーでは、7/27の19時より、小野啓「NEXT TEXT」スライド&トークイベント、そして、『写真画報』などの編集をつとめる沖本尚志氏をモデレーターとした関西にゆかりのある作家によるクロストークの2部構成のイベントを開催します。

第1部は2002年から2012年までの10年間、高校生を撮り続け、その集大成として写真集「NEW TEXT」の出版を準備している写真家・小野啓によるスライドショー+トークイベント。

そして、第2部は小野と同じく、ポートレート作品を制作し続ける関西出身の写真家4名によるクロストークイベントを開催します。

日本のポートレーターはなぜ関西出身者が多いのか。
そんな疑問がクロストークの中で明かされるのではないでしょうか。
是非ご期待ください!!



日時

7月27日(土)19:00 START

テーマ

第一部:スライドショー|小野啓写真集『NEW TEXT』作って届けるためのプロジェクト
第二部:クロストーク|オオサカポートレーター_なぜポートレート写真家は関西出身が多いか?

出演

クロストークモデレーター:沖本尚志
クロストークメンバー:小野啓、阪本勇、キリコ、藤安淳(途中参加)、山元彩香(途中参加)

参加費

1,000円(ドリンク付)

定員

20名(要予約)
下記のイベント参加フォームまたは電話(06-7171-9849)にてご予約ください。
イベント参加フォーム
※ポートフォリオレビューをご希望の方は備考欄に「レビュー希望」とご記入ください。

会場

ブルームギャラリー
〒532-0025 大阪市淀川区新北野1−11−23 ハイム北野 B103


イベントの詳細はこちらをご参照ください。
糸井重里さん主宰のウェブマガジン「ほぼ日刊イトイ新聞」で
絵本『りすたちのはるなつあきふゆ』の著者・藤岡ちささんのインタビューが掲載されました!
こちらは3回の連載記事となります。

発刊当初から、「藤岡さんってどんな人?」というご質問も多数いただいておりました。
この3回の連載でその謎が解き明かされていきます。

りすのファンの方はもちろん、初めてみた!という方も
ぜひお目をお通しください。

<連載はこちらから>
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